里親支援とっとりブログ | 社会福祉法人 鳥取こども学園 - Part 7社会福祉法人 鳥取こども学園 | Page 7

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里親支援とっとりブログ

  • 研修資料とテレビドラマ、たまたまの一致

    里親支援とっとり 所長 遠藤 信彦

     コロナ禍のもと、多くの研修がリモートで開催されています。『専門里親※1』の更新のための研修も、普段ならば東京で行われるのですが、今年は特例で、通信教育となりました。専門里親さんと一緒に、ぼくもその課題に取り組みましたところ、とても勉強になりました。

     どの課題も大事な内容でしたが、特に『子どもの権利擁護』の資料が印象的でした。子どもの権利を尊重すること、子どもが意見をあらわすこと、それを促すことの大事さが、制度や考え方を踏まえて分かりやすく説明されていました。そして、ただ分かりやすいだけに留まらず、資料の作成者と子どもとのやりとりの描写が、なんとも言えずこころに残りました。例えばこんな話です。「保護された少女の今後を考えるため、その子とずっと関係づくりをしていたのだけれど、やっと打ち解けたと思った矢先、その子が不安や怒りを爆発させた。そんな時『子どもシェルター※2』の生活スタッフより『先生、この子のペットを預かってあげてください』と頼まれた。わたしは生き物をあずかることはできないのだが、よく聞くとそれはインターネット上のペットだった。シェルターではスマートフォンなどを預かるため、その子が保護されている間、誰もそのペットに餌をあげることができず、いずれは死んでしまう。そういったことなら、ということでペットをあずかり、少女の代わりに世話をした。私は、その少女が今後、家に戻るのか、施設に入所するのかといったことで頭がいっぱいで、インターネットのペットのことなど聞き流していたのだ。

     ペットの世話だけが原因ではないのだが、少女はその後、落ち着きを取り戻し、自分の将来を見据えることができた。誰にも相談できず苦しい想いを抱えていたその少女の、唯一のこころの支えがそのペットだったのかもしれない。わたしの立場では全くその発想にいたらなかった。生活スタッフの気づきというのはやはりすごいのだなと感じた」といった感じです。描写のはしばしに、子どもたちに向けられる温かなまなざしを感じましたので、一体どんな方がこの資料を作ったのだろうと思いましたら、意外にも弁護士さんでした。東京の弁護士さんの集まりで子どもシェルターを立ち上げられたそうで、保護された子どもには担当の弁護士がつくそうで、このペットの話は、保護された子どもと担当弁護士のエピソードでした。

     専門里親課題をこなした後日、たまたま、深夜に放送されていた『さくらの親子丼2』というドラマを見ました。子どもシェルターで、保護された子どもたちにおいしいごはんを提供している食事スタッフの女性の姿を描いたドラマです。たまたま見たシーンは、主人公が、子どもたちに精一杯向き合っているのに、すぐすぐには信用が得られず、ことばが届かず、トラブルが起きてしまい、悔し泣きをして地団駄を踏んでいるシーンでした。テレビドラマのあらすじというのはたいてい、娯楽として成り立つよういろいろと脚色してあるものですが、子どもたちのことばのはしばしに、えらくリアリティーを感じましたので、一体どこに取材されたのだろう、もしや、と思い調べましたら、取材先のひとつに、先ほどの專門里親課題を作成した弁護士さんたちの事務所がありました。脚本を書いたのは、『金八先生』の最後の方のシリーズを書いた、福祉事務所のケースワーカーの経験がある脚本家さんでした。以前に子どもシェルターを取材した時、是非この取り組みを世間に知らしめたいと思い、長い期間企画をあたため、ドラマ化にこぎつけたそうです。

     里親さんと勉強するのも良いことがあります。ぼくたちのいる児童養護の分野だけでなく、弁護士さんも、脚本家さんも、子どもたちの最善の利益のために、それぞれの立場で尽力していらっしゃいます。このことをいまさらながらに知り、勇気が湧くとともに、自分ももっとがんばらなくっちゃ、と思った、たまたまの一致でした。

     

     

     

    ※1 專門里親

    虐待された児童や非行等の問題を有する児童、及び身体障害児や知的障害児など、一定の専門的ケアを必要とする児童を養育する里親。登録時、更新時に専門的な研修を受ける。

     

    ※2 子どもシェルター

    さまざまな事情で、家庭などで、安全に暮らすことができず居場所がないと感じている子どもが緊急で避難することができる施設。

     


    2020.12.08

  • ある病院のリハビリトレーナーさんのお話

     

    里親支援とっとり 所長 遠藤 信彦

     これは「とてもためになる話だったから、法人のブログに書いて良いか」と許可を得ているので書く話なのですが、親しい里親さんが長期の入院をしておられました。足の関節を治療するもので、大手術であり、長い入院だったのですが、もうすぐ退院されます。もともと元気な方で、健康的な生活をされていたのですが、手術・治療の成果で足の痛みが無くなり、加えて毎日過密スケジュールでのリハビリトレーニングをされるものですから、ますますに輪をかけてお元気でいらっしゃり、ハツラツとしたお声で、入院生活レポートの電話をくださいます。

     退院日が決まった先日、こんな話をしてくださいました。「なごり惜しいとまでは言わないものの、この病院、なにからなにまで本当に快適だったわ。一番良かったのは、スタッフのみなさんが親切でよく気が付かれること。どんな社員教育をしていらっしゃるのかしら。一番はトレーナーさんだったわ。リハビリは、なかなかにハードで、時にはピリッと治療の跡がうずくこともあるのだけど、そんな時トレーナーさんは『あなたのここのところのスジは、もともと、ここからこういった感じにつながっているんだけど、今、こうこうこういった治療段階で、こうこうこうなって突っ張っているかもしれないけど、治っていっているところだから、大丈夫!じゃあ!もうちょっとがんばりましょう!』といったふうに、やさしく、わかりやすく、丁寧に教えてくださるの。自分のからだじゃないのに、人のからだのことを、よく分かるもんだわと感心したわ。結局、がんばらさせられるのだけど、それがいやじゃないっていうか、がんばっちゃうというか、ああ、そういうことなら安心だから、よくなるんだからちょっとくらい痛くてもがんばろう!っていう感じ。あの人が里親したらいい養育されるわ、きっと」という話です。

     この話を聞いて感銘を受けました。当たり前ですが、医療関係者さんは、人のからだの仕組みや、病気のメカニズムと、治療の経過をよくご存知です。リハビリのトレーナーさんであれば、幼い子どもから高齢の方まで付き添われますので、その患者さんの、そのときそのときのからだの状態を、その方その方に分かるように、丁寧に言葉を選んで説明されるのでしょう。それにより、信頼を得て、安心を与え、からだを預かるのですね。そこからさらに、治療に向かうためのやる気まで引き出すのですから大したものです。

     自分をかえりみたところ、自分は制度を分かっているのか、養育のことが分かっているか、その方のご苦労が分かっているのか、その人に伝わる伝え方が出来ているのか、何より、励みになっているのか、などなど、トレーナーさんに見習って精進しなくてはいけない、と、切に思いました。


    2020.11.24

  • ボツテーマ 『子どもの文化から子どもの心を知る~子どもが夢中になるマンガ・アニメのひみつ』

    里親支援とっとり 所長 遠藤 信彦

     

     来年度、鳥取県で行う中国地区里親大会の、基調講演・分科会テーマ選定のため、里親会役員が熱心な討論を行いました。今、里親さんが実際に学びたいこと、今、旬な話題に主眼を置き、たくさんの魅力的なアイデアが生まれました。最終的に5つまで絞り込みましたので、惜しくもボツとなった名案が多々あります。

     ボツ案のひとつに『子どもの文化から子どもの心を知る~子どもが夢中になるマンガ・アニメのひみつ』というものがあります。ボツですのでもちろん仮題なのですが、もともとが「ところで、うちの子どもが一生懸命『週刊少年なんとか』の『鬼滅のなんとか』を読んでいるのだけど、そんなにおもしろいの?うちでは毎週ホームで一冊買って、子ども6人みんなで回し読みをしているわ」といったおしゃべりからの流れです。役員さんは、30代から70代と、幅広い年齢で構成される男女なのですが、「若いときは○○に熱中した!」「月刊誌少女○○が私の青春だった!」などなど、勉強のためのテーマ選定から大きく脱線して盛り上がりました。「北栄町ゆかり、名探偵コナンの青山剛昌先生に講義をお願いしよう!」という遠大な案も出ましたが、先生はきっと多忙を極めていらっしゃるだろうということでボツになりました。

     マンガやアニメの文化から現代の子どものこころを推察するというテーマは、文学的な研究にとどまらず、心理学的・教育学的にも深く研究されています。近県の大学のある教授は、思春期の子どもの心と、異世界の物語との関係を掘り下げています。例えば、宮崎駿作品では、子ども時代の自分との精神的な別れが暗に描かれているそうです。

     子どもが、好きな作品やキャラクターについて話すことばには、たびたびハッとさせられます。これまで何度も、するどい感受性におどろかされ、深い思慮に感心させられました。

     『ガンダムが好きな人に悪い人はいない』と言った男の子がいました。実際には、ガンダムが好きな人の中にも悪人はいるのでしょうが、綿密に設定された空想の宇宙世紀を舞台に繰り広げられる青春群像と、造形美あふれるロボットの活劇について、熱心に討論できる同好の士は、その子にとって何物にも代えがたい存在なのかもしれません。

     ある女の子は、ある作品の、残虐非道の限りを尽くす敵の総大将のことを「かっこいい!いちばん好き!」と言っていました。確かに、ひときわ強くてスタイリッシュではありますが。。。また他の女子からは『好きな敵役は誰ですか?』と聞かれたこともあります。幼少であれば、おおむね正義の味方を好むものでしょうが、思春期ともなると、登場人物それぞれの立場に想いをはせることで、時には、敵役の心情にこそ共感することがあるのでしょうか。世の中は、単純な勧善懲悪だけで割り切れないことを、未成熟なこころで悟るのでしょうか。

     成長期に良質なメディアを鑑賞し、人の心の機微にふれることは、豊かな人間性を育むと言われています。名作に出会うことは、人生観を変えることもあります。ぼくの今の業務上では、なかなか機会が無いのですが、いつかまた子どもたちと、好きな作品について熱心に討論したいものです。

     


    2020.10.30