里親支援とっとりブログ | 社会福祉法人 鳥取こども学園社会福祉法人 鳥取こども学園

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里親支援とっとりブログ

  • 5つのワーキンググループ② 制度の周知3

    里親支援とっとり 所長 遠藤 信彦

     鳥取県では、里親への委託をよりいっそう推進するため、里親と施設、児童相談所の三位一体で、5つに分かれて考えるワーキンググループを作りました。グループの取り組みをシリーズで書きたいと思います。

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     さまざまな事情で、自分の家庭で暮らすことのできない子どもは、地域において家庭的な雰囲気の中で育つことが望まれます。里親家庭はその最たるものです。家庭での暮らしには、子どもの育ちにおいて、さまざまなメリットがあります。

     しかし、公的な子育てを、地域のひと家庭において行うことには、課題もあります。

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    (5つのワーキンググループ② 制度の周知2 の続きです)

     

     10年くらい前、『里親』ということばをインターネットで画像検索すると、かわいいネコちゃんやわんちゃんの写真が画面一面に広がりました。この風潮は、27年前の阪神淡路大震災がきっかけだったと言われています。

     

     

     多くの方が被災し、避難したあと、飼い主とはぐれた犬や猫が街中をあてどなくさまよっていました。これを見かねた方たちが、この犬猫の引き取り手を探そうと「この子たちの『里親』になってくれませんか!?」というキャンペーンを展開したそうです。元来、『里親』という言葉には「本来いるべきところにいられない存在を、愛情深く受け入れるもの」といったニュアンスがありますので、ナイスなワードセンスがヒットし、全国中から引き取り希望が殺到したとのことです。

     ペットを家族の一員として考えている方は多くいらっしゃいますし、ぼくもかわいいわんちゃんやネコちゃんの動画を見ながらお酒を飲むのが好きなのですが、個人的には、『里親』という呼称は、人間を守り育てるときだけに使う表現であってほしいと思います。地域の里親宅やファミリーホームに、さまざまな事情で、自分の家で暮らせない子どもたちがおよそ7,600人暮らしているということを、わんちゃんやネコちゃんより先に、国民全てが認知して欲しいと思います。

     こう考える方は多く、東北地方のある里親会は、人間以外の対象を守り育むことについて『里親』と呼称することをやめてほしい、と、マスメディア等に呼びかけたところ、理解が得られ、その地域では、そういったことが見られなくなったそうです。

     身近にも、こういった取り組みを熱心に行っていた方がいました。以前当ブログにも書いた池田さんという里父さんです。「わしだって犬もネコもかわいいが、一緒にしちゃあいかん。人間に『餌をやる』っていわんだろ?檻にいれんだろ?一頭二頭と数えんだろ?同じ呼び方はいかん」といって、週間のマンガ誌などで、人間以外の対象を守り育む『里親』という表現を見つけるたびに、出版社に宛てて、里親制度の理解を求める手紙を書いていました。水木しげるさんが晩年執筆されていた作品で、あの独特のタッチの、水木さんがモデルの主人公が、捨て猫の首ねっこをつまんで自宅に持って帰り「すなわち、ネコの里親である」と一人語りするというコマがあったときは、「水木先生、あなたは偉大な漫画家であり、我々鳥取県民の誇りですが、どうかご理解いただきたいことがあります~」というような前書きで手紙を書いていました。水木さんは、まもなく幽界へと旅立たれてしまい、残念ながらお返事はもらえずじまいでした。

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     令和5年のこのたび、このことを思い出して再び「里親」を画像検索したところ、写真のような結果でした。わんちゃんネコちゃんはまだ見受けられますが、ひとの里親制度の画像がおおむねを占めています。国をあげて、里親制度への理解を求めていることが、この検索結果からうかがえます。池田里父も旅立たれてしまいましたが、この結果をどう思っているでしょうか。ともあれ、ひとの里親制度の認知度があがっていることを、嬉しく思います。


    2023.02.27

  • 5つのワーキンググループ② 制度の周知2

    里親支援とっとり 所長 遠藤 信彦

     鳥取県では、里親への委託をよりいっそう推進するため、里親と施設、児童相談所の三位一体で、5つに分かれて考えるワーキンググループを作りました。グループの取り組みをシリーズで書きたいと思います。

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     さまざまな事情で、自分の家庭で暮らすことのできない子どもは、地域において家庭的な雰囲気の中で育つことが望まれます。里親家庭はその最たるものです。家庭での暮らしには、子どもの育ちにおいて、さまざまなメリットがあります。

     しかし、公的な子育てを、地域のひと家庭において行うことには、課題もあります。

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    (5つのワーキンググループ② 制度の周知1 の続きです)

     鳥取県内のさまざまな集まりで里親制度の話をしていますが、講義を聞いた方から「もっと暗いもの、触れてはいけない話題だと思っていた」といった感想を聞くことがあります。このようなイメージが想起される理由のひとつに、日本の歴史的事実があると言われています。

      第二次世界大戦前の、日本がとても苦しかった時代、人間は労働力としてしか評価されませんでした。例えば凶作の年に、農村の子どもが米俵一俵とひきかえに働き手として連れていかれるということがありました。例えば困窮した漁村で、家庭が崩壊し行き場の無い子どもが遠縁の家に身を寄せて下働きとして暮らすといったこともありました。昭和22年の児童福祉法制定まで、保護が必要な子どもを家庭で預かることは、民間の慣習として行われていました。おおむねが善意による取り組みでしたが、中には負の要素を持つ預かりもあったのです。このことの印象が、いまだに根強く残っていると言われています。

     ある現代ドラマで、里子となる予定の子どもが里親のラーメン店を手伝っていたところ、店が忙しいさなかに家出してしまうというシーンがあり、見ていてドキッとしました。しかし、お手伝いが辛かったのではないかというこちらの読みに反して、家出の理由は『お父さんお母さんと呼べない』というものでした。子どもは、里親から『お父さんお母さんと呼んでいいからね』と言われたのに、心の整理がつかず、まだ呼ぶことができないことを悩んでいたのです。それを聞いた里親は『お父さんお母さんと呼んでいいよなんて、無神経なことを言ってしまってごめんなさいね。呼び方なんてなんでもいい、ゆっくりでいい、何年かかってもいいから家族になりたいと思っているの』と、泣いて謝る子どもをぎゅっと抱きしめ、見ているこちらもホッとしました。

     敗戦直後の昭和22年、復興に向けて歩みだした日本は、未来をになう全ての子どもを守り、すこやかに育てる誓いを込めて、児童福祉法を制定しました。子どもの最善の利益を、子どもとともに追求することがテーマです。この法律にもとづき、里親制度は運営されています。このことを、正しく知ってもらう必要があります。

     

    (5つのワーキンググループ② 制度の周知3 に続きます)

    (この文章は、鳥取こども学園発行学園だより52号の原文です)

     


    2023.01.26

  • 5つのワーキンググループ② 制度の周知1

    里親支援とっとり 所長 遠藤 信彦

     鳥取県では、里親への委託をよりいっそう推進するため、里親と施設、児童相談所の三位一体で、5つに分かれて考えるワーキンググループを作りました。グループの取り組みを、シリーズで書きたいと思います。

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     さまざまな事情で、自分の家庭で暮らすことのできない子どもは、地域において家庭的な雰囲気の中で育つことが望まれます。里親家庭はその最たるものです。家庭での暮らしには、子どもの育ちにおいて、さまざまなメリットがあります。

     しかし、公的な子育てを、地域のひと家庭において行うことには、課題もあります。

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     里親制度が、一般の方に正しく知られていません。『里親のおうちに行った子は、その家の養子になるのでしょ?』と言う声がよく聞かれます。ある団体が行ったアンケート調査でも、回答者の約半数がこのとおり答えていました。

     里親が子どもをあずかることは、イコール養子縁組ではありません。里親には「養育里親」「養子縁組里親」「親族里親」「専門里親」と4つの種別があり、それぞれにそれぞれの役目があります。子どもが、実の親の元に帰ることができない場合、その子どもにとって一生の、本当の、あたらしい家族とつなぐため、4つの種別の里親のうち、養子縁組を希望する「養子縁組里親」にあずけることを検討します。その子と養子縁組里親は、六ヶ月以上ともに暮らし、里親が家庭裁判所に『この子をうちの養子にしたい』と申し立て、審判により養子縁組の成立が決定します。この成立により、「里親と里子」という続柄(つづきがら)から「養親と養子」という続柄になります。

     「養育里親」「親族里親」「専門里親」が預かる子どもは、子どもの実の家庭が安定し、子ども本人の育ちのちからがつけば、実の家庭に帰っていきます。養育里親は、子どもや家庭の状況によって、様々な期間、子どもをあずかり、ともに暮らします。子どもの自立までということもあれば、十年や五年、短ければ数週間ということもあります。可愛い盛りの乳幼児期を育て、小学校にあがる前に親元に帰っていく姿を見送るということもあります。あるところでこのことをお話しした際「そんなことって、さみしくないですか?」という質問がありました。当然にさみしい気持ちはあります。もしかしたらもう一生会うことが無いかも知れません。一年経ったら親元に帰るという計画で、二歳のお子さんを預かった養育里親が、子どもが無事帰った後、思わずその子の名前を呼んでしまったり、一緒に遊んだ公園で、思わず立ちすくんでしまったりしたという話があります。

     しかし、養育里親は、その子どもと、子どもの家族が落ち着くまでの、代理の養育者です。その子の育ちを信じ、もしこの先、何か心配事があろうとも、自分のいっときの育てがその子の一生の力になっていて、乗り越えられるよう信じて、お家に帰っていくのを見送るのです。

    海外では、養育里親による養育は一時期であるのだから、里子と里親は愛情の絆を築かないようにしましょう、という方針の国があるそうです。日本では、ほんのいっときであろうとも、精いっぱい愛情を注ぎ、涙で別れるという営みがあります。ささやかなさみしさを感じながら、養育里親は、また訪れる子どもの受け入れの支度をするのです。

     

    (5つのワーキンググループ② 制度の周知2 に続きます)

    (この文章は、鳥取こども学園発行学園だより52号の原文です)

     


    2022.12.28