理解と共感と言うけれど【前編】 | 社会福祉法人 鳥取こども学園社会福祉法人 鳥取こども学園

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里親支援とっとりブログ

理解と共感と言うけれど【前編】

里親支援とっとり 所長 遠藤 信彦

 

 われわれの分野では、支援者は、よく『子どもの育ちとつまずきへの理解』とか、『想いへの共感』といったことを促されます。理解・共感など、漢字の熟語にすると、とても耳触りが良く素晴らしいことばですが、本質をとらえるのは、なまなかのことではありません。

 先日、自閉スペクトラム症支援の専門家である、川崎医療福祉大学の重松孝治先生を講師に迎え、発達につまずきのある子どもへの支援について、オンラインスキルアップ研修を行いました。大きな学びがあったのはもちろんのこと、受講した里親さんと、その家庭の里子さんのご様子や、エピソードに感じ入るところがありました。事前と事後に勉強したことも含め、ほんのかけらだけ、理解し、共感できたように思います。

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 講師は、さまざまな発達のつまずきについて、著名人のエピソードを多く引用し説明されました。例えば、水泳のマイケル・フェルプス選手は、幼いころADHD(過度に落ち着きが無かったり、うっかりミスが多かったり、衝動的に行動してしまったりする障害)の診断を受けたそうです。夜遅くなっても覚醒状態でなかなか眠れないので、母親が、なんとかこの有り余ったエネルギーを良い方向に消化して、夜疲れて寝かせてあげようとプールに連れていったことが、水泳との出会いだったとのことです。このことが、のちに、オリンピックで28個メダルをとるという偉業につながったとのことです。

 また、俳優のトム・クルーズは、文字の読み書きに著しい困難を抱えているとのことです。数々の名画に出演していますが、台本を全部スタッフに読みあげてもらって、セリフを覚えているのだそうです。ある映画賞を受賞したとき、壇上のスピーチで「ぼくがここに立つことができたのは、『あなたには苦手なことがあるけど、工夫したらカバーできるよ』と教えてくれた小学校の先生のおかげです」と話したそうです。

 紹介くださった著名人の一人に、エッセイストの小島慶子さんの名前がありました。小島さんは、40歳を過ぎてADHDと診断されたそうです。それまで、場違いで突拍子もない言動が多かったり、片付けができなかったり、遅刻が多かったり、何かに夢中になると他のことがおろそかになってしまったりすることが多く、自分を厳しく責め、ご飯が食べられなくなったり、激しい不安に襲われたりしたそうです。40歳を過ぎてから診断を受けて初めて、自分の脳に機能障害があることを知り「なーんだ、そうと知っていればもっと自分の扱い方がわかったのに」と思ったそうです。

 執筆されたエッセイにこのような文章がありました。「ママは、私の障害について勉強して、『ほらあなた!今のが障害よ!』と言うのだけれど、私は私で、どこが障害で障害じゃないかなんてわからない、全部私だよ。障害は、私の一番目立つ特徴かもしれないけど、私の全てではないんだよ」と語られます。元アナウンサーで、エッセイストでいらっしゃいますから、ご自分のことも、社会のことも、リアルにクールに見つめ、端正なことばで述べられます。この問いかけには、思わずドキッとさせられました。


(中編に続きます)

(この文章は、鳥取こども学園発行学園だより50号里親支援とっとりコーナーに掲載されたものの原文です)

参考サイト:withnews 小島慶子さん連載「Busy Brain」

https://withnews.jp/articles/series/89/1


2021.10.29