リレーブログ | 社会福祉法人 鳥取こども学園 | Page 5

社会福祉法人 鳥取こども学園は、キリスト教精神にもとづいて創立されました。その基本理念は『愛』です。

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  • リレーブログ 第10回 「さとせん」のお仕事 乳児部 清水(里親支援専門相談員)

    「今日は、初めてサトちゃんと会った日なんです。」。

     久しぶりに電話をかけてきたサトちゃんの里親、藤本さん夫妻の言葉です。私が覚えていたのは、サトちゃんの誕生日とサトちゃんが乳児部から藤本さんの家に引っ越しをした日でした。藤本さん夫妻にとっては、初めて出会った日がとても大切な記念日だったのですね。驚きました。そして、記念日が、決して藤本さん夫妻にとって楽しく、明るい未来を想像できるドラマチックな出来事ではなかったことも思い出しました。

     初めて藤本さん夫妻に出会ったサトちゃんは、手をつなごうと近づく夫妻から逃げだしました。それでも藤本さんが手を握ろうとすると振り払っていました。一緒にお散歩に出かけたのは良いのですが、藤本さんから距離をとり一人だけ先に先に歩いていきました。藤本さん夫妻に見えるサトちゃんは、後ろ姿か、ぷいっと視線をそらす横顔ばかり。まるで、「この人は知らない人!そんなに見ないで」、「私になれなれしくしないで」と言わんばかり手と手の態度でした。

     初めての出会いがこんな様子でしたから藤本さん夫妻のショックは相当のことだったと思います。こんなに邪険にされたら夫妻の心が折れてしまうのではとハラハラしましたが、夫妻は「また会いに来ます」と笑顔の即答でした。

     それからは、藤本さん宅での同居開始を目標にして、サトちゃんと藤本さん夫妻が出会う度に乳児部や子ども家庭支援センターのスタッフ、藤本さん夫妻とも何度も何度も話し合いを重ねました。学園周辺のお散歩から始め、地域の公園、ショッピングモール等々へと何度も何度もお出かけを重ね、やっと藤本さん宅への一泊お泊まりにたどり着いています。

     子どもの発達課程で愛着形成に重要でない時期はありません。サトちゃんのお世話をしている乳児部のスタッフには、サトちゃんが人見知りをすることは、喜ばしいことです。ですから、健康に成長しているサトちゃんのことを思うと、藤本さん夫妻との出会いの日、いわばマイナスからの出会いにこそ価値があり、サトちゃんと藤本さん夫妻の記念日として大事にしてくれていることがわかり嬉しく思いました。そして、半年以上の準備を重ねて、サトちゃんと御夫妻の生活が始まって、記念日が訪れています。藤本夫妻は、サトちゃんが「可愛くて可愛くて仕方ない」という風情です。サトちゃんもすっかり、藤本家の一員となってい姿を見るとこの仕事をしていて良かったと思えるのです。

     里親登録申し込みの後に養育里親基礎認定前研修で施設実習があります。先日、ご夫婦で里親登録を希望されている鈴木さんの実習を乳児部で受け入れました。子どもたちが人見知りすることを予想して、あらかじめ鈴木さん夫妻に心構えをしてもらいました。鈴木さんの腕に抱かれてすやすやと眠る子、もうこれ以上行けないという部屋の隅まで鈴木さんと距離を取ろうとする子、乳児部スタッフのそばから少しずつ離れて鈴木さんとかかわろうとする子など様々でした。実習を終えた鈴木さん夫妻の感想は、「人見知りをするものだとは聞いていたが、ここまでとは思わなかった。」、「想像していた施設、想像していた施設の子どもとは全く違った。」、「職員も子どももみな幸せな暮らしをしていることがわかった。」、「そんな子どもに、里親として何ができるのか考えると不安に思う」とのことでした。

     里親支援専門相談員の仕事を始めて、4年目を迎えました。子どもと里親との関係は、「縁」、「運命」、「相性」まかせにして語られるものではありません。適切な支援と子ども・里親・職員の創意工夫と努力によって、関係が成長・発展していくのであるということをサトちゃんと藤本さん夫妻から学びました。

     サトちゃんの気持ちを想像すると

     ◎「全力で拒否期」(あなたはだあれ? わたしになにをしようとしているの?)

     ◎「安心できる大人発見期」(わたしにわるいことはしないのだなぁ!)

     ◎「特別な存在発見期」(わたしのことをだいすきなんだ!わたしも、だいすき!)

     こんな感じではないでしょうか?

     私達のいままでのやり方は、子どもの注目を里親に向けるための方法として、それまでの養育者とのつながりを「切って」、そのつながりを里親に「つなぐ」という方法でしたが、うまくいったケースばかりではありません。

     「切って」、「つなぐ」やり方がなかなかうまく行かないのは、これまでの養育者と子どもが「つながっている安心」を切り捨ててしまうので、子どもは安心して新たな養育者を発見するのが難しくなるのではないでしょうか。「切って」、「つなぐ」のではなく大切な人との関係を「つないだまま」、「つなぐ」のが子どもにとって安心とともに里親を養育者として選ぶことが可能になるのだと思います。

     里親と「さとせん」やお世話をするスタッフは、子どもの安心や特別感を引き出す演出を一緒に考え、協力することが必要です。藤本さん夫妻には、サトちゃんとの関係を育む中でたくさんの葛藤があったことと思います。同じようにサトちゃんにも大きな葛藤があったのでしょう。この葛藤を受け止めながら子どもの気持ちを汲み取り、寄り添おうとするかかわりそのものが、子どもに伝わり、劇的な関係の成長をもたらしたのだと思います。手から手へ

     実習で初めて子どもの人見知りを経験した鈴木さんご夫婦も、近い将来、里親として別のサトちゃんと出会う日が来るでしょう。「さとせん」が出会い、見守ってきたサトちゃんと藤本里親の物語を伝えながら、子どもが里親を特別な存在として発見していく過程を応援したいと思っています。

     

     私たち里親支援専門相談員は、東部里親会や里親支援とっとりと協働して、里親制度の普及啓発活動に力を入れています。施設職員である私たちが里親を語ることは、支援を必要としている子どもたちのこと、その子どもたちの受け皿である施設の役割を語ることでもあります。施設と里親がいい協力関係を築いていくことは、子どもたちの未来の選択肢が広がることにつながると信じて、この普及啓発活動も続けて行きます。

    皆様の御理解と応援をお願いします。(文中のお名前は仮名です。)

    鳥取こども学園乳児部 里親支援専門相談員 清水暁子

    里親制度のこと 里親支援とっとり


    2015.06.24

  • リレーブログ 第9回「鳥取こども学園希望館20歳の誕生祝い」山下 学(希望館副館長)

     1994(平成6)年4月に誕生した、鳥取こども学園希望館開設20周年の祝いの会が6月1日(月)に鳥取こども学園体育館を会場に催されました。正確に言うと希望館は今年既に21周年を迎えていますが、20周年の昨年は記念事業の生活棟改築整備工事中だったため、祝いの会は竣工を待ってということにさせていただきました。

    希望館生活棟竣工次第(外)レイヤー統合希望館生活棟竣工次第(内)

     希望館は、それまで80名定員だった養護施設(現:児童養護施設)鳥取こども学園の定員を45人に減らし、入所30人、通所10人の定員で、情緒バランスに不調を来している子どもを対象に、短期間治療・養育・教育の支援を提供する施設(以下、情短施設)としてスタートしました。全国で16番目となる医療・福祉・教育が協働する施設は当時珍しく、管轄する行政機関にとっても現場にとってもあらゆることが初めてだらけだったように思います。

     児童養護施設と情短施設の違いは、医師(精神科or小児科)と看護師、そしてセラピスト(心理療法担当職員)が配置されていることです。生まれたばかりの情短施設鳥取こども学園希望館には、それまで養護施設で培ってきた養育文化をベースに心理的、精神科的視点を加えた新たな養育文化を創造することが大きな課題でした。しかし、それは言葉で言うほどには簡単なことではありませんでした。日々展開される様々な問題に体当たりでぶつかりながら、子どもと一緒に一つひとつ解決を積み上げる手探りの実践が続きました。頼みの綱は、副館長で施設精神科ドクターのスーパービジョンとカンファレンスでしたが、病院の臨床が施設現場にそのまま適用できる訳ではなく、実に多くのことを子どもたちから学ばせてもらってきたように思います。そうやって子どもらと向き合った20年の歩みの中で「子どもの最善の利益の追求」を合い言葉に実践を積み上げ、希望館における「生活型・小舎ブロック制」の実践が全国から注目を集めるまでに成長してきました。そして今、鳥取こども学園で長く育んできた小舎制の取り組みは、これからの社会的養護におけるスタンダードとして認められつつあります。

    竣工式竣工式記事

     「小舎制の生活」は昭和36年当時、法人として「子ども最善の利益の追求」をある意味具現化させたものでした。希望館は開設以来そのスタイルを踏襲し続け、この度竣工の生活棟を改築しました。改築にあたっては約2年半に渡って子どもと職員で話し合いを重ね、皆の「夢を形に」できたと思っています。勿論、私達だけで成し得たことではありません。国、県、市の関係機関や募金呼び掛け人を引き受けてくださった方々、募金に協力してくださった方々、そして設計監理の(株)山下設計工房様、施工の(株)藤原組様他、多くの方々のお力添えがあっての結果です。竣工式に来賓として臨席くださった平井鳥取県知事様の祝辞の中で「子どもたちの城」というお言葉をいただきましたが、正に私達は神様と多くの皆様に支えられて「子どもたちの城」を与えていただいたんだと思います。

    竣工広告

     一口に20年と言いますが、人で言えば成人式を迎える年です。そういう意味では、今回生活棟の竣工を機に、多くの皆様にお集まりいただいて希望館の成人式をしていただいたように思います。誠に、ありがとうございました。これでようやく一人前ということなのかもしれませんが、まだまだ駆け出しの若造でもあります。更なる成長のため、皆様の益々のご支援並びにご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。


    2015.06.11

  • リレーブログ 第8回「ミットレーベン~ともに暮らす~」藤野謙一(希望館副館長)

     僕は今、新築されたばかりの希望館生活棟の一室でこの文章を書いている。今日は休日で、天気は快晴。子ども達や職員達の笑い声、掃除機の音、洗濯機に異音が発生し「あーでもない、こーでもない」と議論する声が聞こえる。縁側から突然「ワッ!!!驚いた?!」と小学生が満面の笑みを浮かべて顔を出す。思わず窓を開け、笑顔で頭をなでる。何気ない休日の一面である。しかし、希望館の生活は、こんな和やかな日だけではない。純真無垢な存在であるはずの子ども達は、社会の歪みの中で様々な体験を経てここに辿り着くため、「自分を見てほしい!」「受けとめてほしい!」と身体全体で言葉や行動で表現し、職員も全身全霊を捧げてぶつかり受けとめる。日々繰り返される「生活」は、言葉にできないリアルな世界である。だから、僕は自分のエゴかもしれないが、ここを拠点として子ども達や職員と生活を共にしながら副館長等の活動をしている。

     先日、「ミットレーベン~故郷・鳥取での最後の講義~/糸賀一雄/第14回全国障がい者芸術・文化祭とっとり大会実行委員会/2014年」という本を購入した。この本は、「知的障がい児の父」「障がい福祉の父」と呼ばれた糸賀氏が知的障がい児施設鳥取県立皆成学園で行った故郷鳥取県の地における最期の講義で、ほぼ録音されている通りに再現されたものである。ドイツ語「ミットレーベン」とは、「ともに暮らす」という意味である。

     この本の中で、僕が特に気に入った箇所を抜粋する。

     「尻を拭くというような、鼻をズルズルの鼻をかんでやるというような、手にその感触がいつまでも残るような『ミットレーベン』の中で、初めて発言ができるというような発言もですね、私たちは尊重しなければなりません。それは、一隅を照らしているからであります。そんなことは、天下国家に関係が無いと人は言うかも知れません。言われてもいいです。言われたって構わない。しかし、必ずこの一隅を照らすところから、この子らが世の光となってくるのです。この世の光となってくるこの光というものが、この子らの存在そのものが、光輝いていくような、そういう育てというもの、教育というもの、指導というものが、社会の財産になる。専門職というのは、そういう働きをして下さる方々なんです。」

     講義では、他にも今でも色褪せず本質だと思われることが語られている。希望館は、小舎制生活型の施設にこだわって実践してきた。偶然なのか必然なのかわからないけど、糸賀氏の思想と希望館の思想が重なって、多くの学びを得た。ちなみに、これも偶然なのかもしれないが、糸賀氏は鳥取こども学園の近所で生まれ育ち、鳥取こども学園が繋がっている鳥取教会で受洗している。これも何かの縁なのか、歴史を感じる。

     これからも、希望館は「ミットレーベン」を中核に据えながら子どもと大人が共に歩み、現実を切り拓き、新しい未来を切り拓いていきたいと思う。

    参考 「ミットレーベン~故郷・鳥取での最後の講義~」のご案内

    http://db.pref.tottori.jp/pressrelease.nsf/0/03DC99F779BECDAB49257DA20000863D?OpenDocument

    玄関 裏側からの風景 完成間近となった希望館生活棟

     

     


    2015.05.07